たとえばビジネスの現場で──
「部署間の連携のために、もっとコミュニケーションを〇〇べきだ」
こんな文脈で「取る」と「図る」、どちらの表現を使うのが正しいのか、ふと立ち止まってしまう場面は意外と多いものです。
なんとなく耳なじみがあるのは「コミュニケーションを取る」の方かもしれませんね。
一方で「コミュニケーションを図る」も、企画書やスピーチなどでよく見かける表現です。
どちらも間違いではなさそう。でも、どんな違いがあるのか──。
その“もやっ”とした疑問、この記事でしっかり整理していきましょう。
今回は、似ているようで使いどころの違う「コミュニケーションを取る」と「図る(はかる)」について、
意味・使い方・ニュアンスの違い・言い換え・注意点などを、具体的な場面ごとにやさしく解説していきます。
「コミュニケーションを取る」の意味とは?
「コミュニケーションを取る」は、日常生活でもビジネスでも非常によく使われる表現です。
まず、この言葉が何を意味しているか、しっかり押さえておきましょう。
コミュニケーションを取る = 会話・連絡・やり取りなど、実際に双方向の意思疎通を行うこと
つまり、すでにアクションが伴っている状態を指します。
たとえば:
- 上司と部下が意見をすり合わせる
- LINEで家族に連絡を入れる
- 子どもの話をしっかり聞いてあげる
- 顧客とメールでやりとりする
──こうした具体的な“やり取り”が発生しているときに、「コミュニケーションを取っている」と表現できます。
「取る」は動作が発生していることが前提なので、「これから取る予定」「昨日取った」など、時間軸にも柔軟に使えるのが特徴です。
ちょっとした確認ですが──
「社内でしっかりとコミュニケーションを取ることが大切です」といったフレーズは、すでに“対話そのもの”を想定しています。
だからこそ、日常的・実践的な場面ではこちらの表現がしっくりくることが多いのです。
コミュニケーションを図るの意味とは?
一方で「コミュニケーションを図る(はかる)」は、少し異なる角度を持った表現です。
この言葉には、実際にやり取りをするというよりも、「その状態をつくろうと試みる」というニュアンスが含まれています。
コミュニケーションを図る = 意思疎通をうまく進めるよう、意図的・計画的に働きかけること
たとえば:
- 会議の雰囲気をほぐすために話しかける
- 部署間の連携を意識して情報共有の場を設定する
- トラブルが起きないよう、事前に関係者との信頼関係を築いておく
──こうした「円滑な関係を作るための取り組み」や「意思疎通の土台づくり」に使われるのが、「図る」です。
この表現は、政策・提案・リーダーのスピーチなど、“少しフォーマルな文章”でよく使われます。
言葉の背景には、「どうすればうまくいくかを考えて働きかける」というニュアンスがにじんでいるんですね。
「図る」は結果よりも、そこに向けた意図や姿勢を大切にする言葉。
だからこそ、会話というより、企画や計画を語るときに用いられやすいのです。
「コミュニケーションを取る」と「コミュニケーションを図る」の使い分け方
ここまでを踏まえると、2つの違いは「行為そのもの」か「それに向けた姿勢や意図」か──この視点で整理できます。
- コミュニケーションを取る → 実際に会話・連絡・やり取りを行う
- コミュニケーションを図る → 意思疎通をスムーズにするために働きかける(試みる)
ちょっとした違いですが、使い分けの場面ではこの「温度感」の違いが効いてきます。
たとえば、次のような言い換えは自然です。
- 「上司と意見をすり合わせる」→ コミュニケーションを取る
- 「社内の風通しを良くしたい」→ コミュニケーションを図る
「取る」は“いま起こっていること”、
「図る」は“これから起こすこと”や“うまくいくように仕掛けること”。
このように覚えておくと、使い分けに迷ったときのヒントになりますよ。
ビジネス現場では「図る」と「取る」をどう使い分ける?
職場やビジネスシーンでは、「コミュニケーション」がうまく取れているかどうかが、
そのまま業務効率や人間関係のスムーズさにつながることもありますよね。
そのため、「取る」と「図る」の使い分けが自然にできているかどうかは、
意外と相手からの“印象”にも影響します。
✔ 実際のやり取りには「取る」
たとえば:
- 朝礼で部下と予定をすり合わせる
- チャットで業務の進捗を確認する
- ミーティング後に「さっきの件、どう思う?」と一声かける
こうした場面は、すでに行為が発生しているので「コミュニケーションを取る」が適切です。
上司が「もっとコミュニケーションを取ろう」と言えば、
「ちゃんと話そう」「きちんと報告しよう」という実践的な意味合いが伝わります。
✔ 企画・研修・改善提案には「図る」
一方で、次のような場面ではどうでしょう?
- 異なる部署同士の連携強化を目的とした勉強会の開催
- 新人研修における交流ワークの導入
- 離職率を下げるための風土改善施策の検討
これらは、より良いコミュニケーション環境を“意図的に”つくる動きです。
したがって、「図る」がふさわしいですね。
「信頼関係の構築を図る」「相互理解を図る」などの言い回しとも親和性があります。
「取る」は会話向き、「図る」は文書向き?
実は、「話し言葉」か「書き言葉」かでも、使われやすさに傾向があります。
- コミュニケーションを取る → 話し言葉・カジュアル・実務会話
- コミュニケーションを図る → 書き言葉・フォーマル・ビジネス文書
たとえば、普段の会話ではこんな形が自然です:
「あの人、あまりコミュニケーションを取らないよね」
「クライアントともこまめにコミュニケーション取っておきましょう」
一方で、報告書やプレゼン資料などではこうなります:
「チーム内の連携強化を目的とし、円滑なコミュニケーションを図った」
「関係部署との情報共有体制の構築を図る」
このように、言葉選びのトーンにも微妙な差があるんですね。
もちろん厳密なルールではありませんが、
「どんな文脈で」「誰に向けて」話しているのかによって、自然な使い分けを意識できるとスマートです。
英語で表すと? 直訳では伝わりにくい違いも
英語にすると、どちらも “communicate” や “communication” で表されることが多いのですが、
実際にはニュアンスの違いを一語で再現するのはなかなか難しいところ。
たとえば:
- コミュニケーションを取る → communicate with / talk to / reach out
- コミュニケーションを図る → promote communication / encourage communication / facilitate dialogue
つまり、「取る」は直訳しやすいけれど、
「図る」は“促進する”“仕掛ける”という意味合いを補ってあげる必要があります。
この点からも、「図る」はより抽象的・戦略的な語感を持っていると言えそうですね。
言い換え表現も覚えておくと便利です
文章や会話の中で「毎回同じ表現ばかりになってしまう…」と感じたとき、
言い換えのストックがあると表現がグッと豊かになります。
コミュニケーションを取るの言い換え:
- 意見交換する
- 連絡を取り合う
- 会話を重ねる
- 声をかける
- 情報共有する
コミュニケーションを図るの言い換え:
- 関係性の構築を試みる
- 意思疎通の機会を設ける
- 信頼関係を築く
- 対話の促進を目指す
- 円滑なやり取りを意識する
言い換えによって文章の印象も変わるので、
フォーマルな文章では「図る」系、親しみを出したいときは「取る」系をうまく使い分けると、
伝わり方も自然になりますよ。
注意したいポイント:「図る」はやや硬い印象がある
最後に、使い分けるうえでのちょっとした注意点も挙げておきます。
「図る」は意図や戦略を感じさせる表現なので、
カジュアルな場面で多用すると、やや堅苦しい印象を与えることもあります。
たとえば、プライベートな会話で:
「最近、家族とのコミュニケーションを図ってるんだ」
──といった使い方は、意味としては通じるものの、どこかぎこちなく聞こえるかもしれません。
一方で「コミュニケーションを取る」は、少しくだけた会話からフォーマルな文脈まで幅広く使える、
オールマイティーな言葉として覚えておくと安心です。
ただし「図る」は決して間違いではなく、
適切な文脈で使えば、丁寧で知的な印象を与える表現でもあります。
だからこそ──
どちらも正しいが、場面によって自然さに差が出るという視点がとても大切なんですね。
まとめ
「コミュニケーションを取る」と「コミュニケーションを図る」。
このふたつは似ているようで、実は“伝わるニュアンス”にしっかりとした違いがあります。
実際のやり取りを表すなら「取る」、
その前段階の準備や働きかけなら「図る」が自然な選択肢となります。
とはいえ、どちらも「意思疎通を大切にする」という点では共通しています。
言葉の細やかな違いを意識することで、
相手との距離感や、文章の印象もぐっと整ってきますよ。
どちらの言葉を選ぶかは、何を伝えたいか次第。
大切なのは、言葉そのものよりも、その背景にある気持ちや姿勢なのかもしれませんね。
コメント