日常会話の中で何気なく使う「ちなみに」という言葉。
雑談でもビジネスシーンでも登場する便利な表現ですが、ふと「これは敬語として使えるのだろうか?」と迷ったことはありませんか。
とくにメールや商談など、言葉の選び方ひとつで相手の印象が変わる場面では、「ちなみに」が軽すぎる響きにならないか気になる人も多いようです。
この記事では、「ちなみに」が敬語に当たるのかどうかを出発点に、ビジネスでの使い方や注意点、丁寧な言い換え表現までをわかりやすく解説していきます。
「ちなみに」は敬語?
まず前提として、「ちなみに」は敬語ではありません。
話題に関連する情報を補足的に伝えるための語句で、文と文をつなぐ「接続詞」にあたります。
ではなぜ、「ちなみに」が敬語かどうか気になる人が多いのでしょうか。
その背景には、ビジネスメールや面談などで、敬語と丁寧語の使い分けに敏感になる場面が増えてきたことが挙げられます。
実際、「ちなみに」の語調はやや柔らかく、日常的で親しみやすい印象がありますよね。
そのため、「上司や取引先に対しては少しラフすぎるのでは?」と感じられることがあるのです。
ただし、これは「間違った表現」というわけではありません。
敬語ではないとはいえ、「失礼にあたる表現」でもない。
この微妙な立ち位置が、「ちなみに」という言葉を少しややこしく感じさせる原因なのかもしれません。
ビジネスで「ちなみに」を使っても失礼にはならない?
結論から言えば、「ちなみに」は適切な文脈と丁寧語と組み合わせて使えば、ビジネスでも問題ありません。
たとえば以下のような使い方は、ごく一般的です。
ちなみに、こちらの企画は来週までに提出予定です。
ちなみに、先方のご希望は午後からとのことでした。
どちらも、文章全体として敬意が保たれていれば違和感はありません。
ただし、「ちなみに」のあとの表現があまりにフランクだと、ややカジュアルな印象を与えることもあるため注意が必要です。
たとえば…
×「ちなみに、あの件ってどうなってましたっけ?」
→ この場合、「ちなみに」は悪くないものの、その後の「どうなってましたっけ?」という表現にラフさが目立ちます。
つまり、「ちなみに」という接続詞そのものがNGなのではなく、その後に続く文の語調や相手との関係性によって丁寧に見えるかどうかが決まるということですね。
「ちなみに」を使う場面での注意点とは?
では、「ちなみに」という言葉を使う際に、どんなことに気をつければよいのでしょうか。
ポイントは次の4つです。
- 主文との関係性を意識すること
「ちなみに」は、話題を軽く追加したり、補足する時に使う言葉です。
そのため、主文とのつながりが弱いと、唐突に感じられる場合があります。 - 相手との距離感に合わせること
フレンドリーすぎる文調と組み合わせると、「カジュアルすぎる印象」になることも。
特に初対面や目上の相手には、丁寧語とのバランスが大切です。 - 使いすぎに注意すること
便利なつなぎ言葉である「ちなみに」ですが、頻出するとやや幼い印象や、くどさを与えることも。
他の接続詞と適度に使い分けると、文章全体のリズムも整います。 - 疑問文との組み合わせに配慮すること
「ちなみに、ご出席なさいますか?」のように疑問文と一緒に使うと、やや唐突な印象になる場合もあります。文脈によっては丁寧さを欠いて見えることもあるため、状況を見て判断したいところです。※この点については、後半の見出しでも詳しくご紹介します。
少しの違和感でも、相手に「丁寧さが足りない」と思われてしまうと残念ですよね。
だからこそ、「ちなみに」は慎重すぎず、でも無頓着すぎない距離感で使えるようになっておきたいところです。
「ちなみに」の言い換えで丁寧さをアップするには?
「ちなみに」という言葉が少し気になるとき、より丁寧な印象に仕上げたい場面では、言い換えを意識すると表現の幅が広がります。
たとえば、以下のような言葉が自然な代替表現として使えます。
- 「なお」
- 「補足いたしますと」
- 「参考までに申し上げますと」
- 「あわせてご案内いたします」
これらの言い回しは、「ちなみに」よりもややフォーマルで、目上の相手にも安心して使えるトーンになります。
ただし、こうした表現は場面によってやや堅すぎる印象になることもあるため、「誰に」「どのような文脈で」伝えるかによって使い分けが必要です。
ふだんの会話文では「ちなみに〜」でも自然でも、企画書や提案文では「なお〜」「あわせて〜」などの方がしっくりくる場合もある──
そんなふうに、言葉のトーンを少しずつ調整できると、コミュニケーション全体の印象も大きく変わってきますね。
「ちなみに」が自然に使われるビジネス表現の例と、その言い換え方
ではここからは、実際のビジネスシーンで「ちなみに」が使われる具体的な文例をいくつかご紹介しながら、より丁寧に言い換える方法も併せて見ていきましょう。
たとえば、こんな文があります。
ちなみに、会議の開始時間は10時からの予定です。
→ 言い換え例:「念のため補足いたしますと、会議の開始時間は10時からの予定です。」
ちなみに、先方との契約は今月中が目処とのことです。
→ 言い換え例:「参考までに申し上げますと、契約の締結は今月中が目処とのことです。」
ちなみに、このプランにはオプション機能が含まれています。
→ 言い換え例:「補足情報としてお伝えいたしますが、このプランにはオプション機能も含まれております。」
このように、「ちなみに」は情報を付け加えるニュアンスを持っているため、
言い換えでは「補足」「参考」「念のため」といったワードと組み合わせると、より丁寧な印象になります。
ただし、表現を丁寧にしすぎると冗長になってしまうこともあるため、文章全体のバランスを見ながら調整することが大切ですね。
「ちなみに」は使わない方がよいシチュエーションもある?
ここまで、「ちなみに」は丁寧語と組み合わせればビジネスでも使えることをお伝えしてきましたが、
一方で、「使わないほうがよい場面」も実は存在します。
具体的には以下のようなケースです。
- 厳粛な場や、あいさつ文などのフォーマルすぎる文書
- 苦情・謝罪・謝意など、相手の感情に配慮が必要な文脈
- 重要事項を伝える場面で、軽さや回りくどさを感じさせたくないとき
たとえば、謝罪メールの中で
ちなみに、今後は気をつけます。
といった表現を使うと、どこか軽く聞こえてしまい、誠意が伝わりにくくなることがあります。
また、契約に関する最終的な確認メールで
ちなみに、解約はできません。
といった一文だけを見ると、「その言い回しは本当に適切?」と感じる方もいるでしょう。
このように、「ちなみに」はあくまでも補足的な役割を持つ言葉なので、話の中心や重要な結論を伝える場面では使わない方が適していることもある、ということですね。
「ちなみに」は疑問文で使わないほうがよい?
さらに注意したいのが、「ちなみに」を疑問文と組み合わせる使い方です。
たとえば「ちなみに、ご出席なさいますか?」「ちなみに、この件は大丈夫でしょうか?」といった言い回しは、一見自然に聞こえるものの、補足や追加情報を伝える語としての本来の役割とずれが生じる場合があります。
なぜなら、「ちなみに」はあくまで相手に情報を提供する語感を持つ接続表現です。
一方で、相手から情報を引き出す「質問」との組み合わせは、文脈によっては唐突な印象や、ややカジュアルな雰囲気を与えてしまうこともあるのです。
たとえばビジネスメールで
❌「ちなみに、明日の会議は何時からでしょうか?」
という聞き方をすると、ややくだけた印象となり、場面によっては違和感を抱かれることがあります。
このような場合は、
✅「恐れ入りますが、明日の会議のお時間をお教えいただけますでしょうか」
のように、丁寧さを優先した直接的な表現に言い換えるほうが安心です。
このように、「ちなみに」は補足や説明には有効でも、改まった場面での質問表現としては避けたほうが無難なケースもあるという点を覚えておくと安心ですね。
「ちなみに」をうまく使うコツは“自然さ”と“配慮”のバランス
ここまでの内容をふまえると、「ちなみに」はビジネスやフォーマルな場でも使える言葉ですが、
使い方にはある程度の文脈センスが求められることがわかってきます。
無理に言い換えを使いすぎると、かえって堅苦しくなりすぎたり、くどく感じてしまうこともありますよね。
だからこそ大切なのは、「この文脈で、この相手なら、自然に伝わるか?」という“感覚の調整”です。
- ちょっとした話題の追加なら「ちなみに」
- 少しかしこまった補足なら「なお」や「ご参考までに」
- 論理的に話をつなげたいなら「加えて」や「その上で」
このように、接続詞を「意味」で分類するのではなく、印象で使い分ける感覚が身についてくると、
文章にも自然な温度が宿ってきます。
少しずつでも、「この言い回しは少し柔らかくしたいな」と感じたときに
選べる言葉の幅を持っていることが、結果として大きな信頼感につながるかもしれません。
まとめ
「ちなみに」という言葉について、
敬語かどうか、ビジネスで使ってよいか、言い換えはどうするか──といった視点で解説してきました。
結論として、「ちなみに」は敬語には分類されませんが、
文章全体のトーンや語尾に丁寧さがあれば、目上の方に対しても失礼にならない表現として活用できます。
むしろ、その“ちょうどよいやわらかさ”が場面によっては相手との距離を自然に近づけてくれることもあるでしょう。
ただし、言葉は常に「誰に・どの文脈で・どのトーンで」使うかによって印象が変わります。
とくに敬語においては、「正しさ」だけでなく「心地よさ」も大切な要素です。
今回の内容が、そうした“言葉の温度”を意識するきっかけになれば嬉しく思います。
焦らず、ひとつずつ。
自分なりの言葉選びの感覚を、丁寧に育てていけるといいですね。
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